いつかの時間

 

 

日が高くなると
葉陰にそっと
風がさわいでいる声を聴いた
帰る事を諦めた夏の
とおい潮騒をとどけるはずもない

波は 光る蒼いプリズムのように
屈折したわたしの気持ちを
まばゆいいのちの色で染め上げる

いつかの時間が
沖合いからわたしを呼んでいる
 

素足の足指は水を怖がり
透明でない 海を愁うる間もなく

水着のなかまで溶ける水
 

わたしは膨らんだ心を
そっと波に預けて
死んだようによこたわる
海のひろさを知ることのできない
人魚になれない
ちいさすぎるじぶんを
波に預けて

すこし遠い波打ち際で
しめりけをおびた砂山が
しだいに崩壊してゆく
無の本質に気づいて
こどもが泣いている
わたしのお城をこわしたのは
だれ

いくつものわからないことが
流れ始める波音に
消されてしまうけれど
そんなふうに
ゆうがたの海で
このからだを預けて
聴いた潮騒も
そして
耳たぶに馴染む
風の触れ方も
忘れられない

【投稿者】 星粒

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