水際の少女  

 

『誰も信用してはいけない』
誰かが言った。幼い少女は意味も分からず、
ただ微笑んでいた。

 『愛とは、自分に対してだけ育まれるものさ』
また、誰かが言った。思春期の少女は
気にも止めず<永遠の愛>を信じていた。

『大切な人が死んだ時涙が出るのは、
その人を失った自分を可哀想と思うからだ』
次第に大きくなって行く誰かの声に、
傷ついた少女は耳を貸さずには居られなくなっていた。

 『どうしても信じる事をしたいのなら、
自分の事だけで充分だ。
他人など思いやって何の得がある?』

 湖のほとりに、可憐な少女は立っていた。
少女が水面を覗き込むと、そこには禍禍しく
歪んだ魔物の醜い姿が映し出されていた。
成長した少女は、答えを見出していた。

『誰かに愛されたいと思うなら、自分が他人を
愛せる人間でなければならない。
誰かに認められたいなら、自分が進んで
誰かを思いやれる心を持とう。
皆がそうすれば、きっと素敵な事だろう。
人間には、それは出来るはずさ』

 水面には、もう魔物の姿は無かった。

 

【投稿者】 徹哉 (中川てつや)

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