蜜柑の香りがする午後

 

 

おそく 春をむかえるのです
その季節の雨はさむく しまい込んだ膝掛けを
ふたたび 広げてみたりも します。

蜜柑の香りは指に染み込むように
もうじき
赤い宝石 のように雫を滴らせ
あたらしい小さな果実が
柔らかい朝に
近くの農道を がたごととトラックに乗って
到着するでしょう

午後は 眠たそうな音楽に
時間をすいとられて
窓から
ふと猫がこちらを覗き見しているようで

蜜柑の香りがする午後
もうじき
子供が無邪気な卒業式の歌を
レッスンしながら帰って来ます。

小さな握りこぶしで
古い木の扉を叩いて
わたしは御帰りの代わりに
蜜柑のひと房を
そっと歌をやめた彼女の口元に
手紙を出すみたいに
ぽとんと落とします

 

 

 

【投稿者】 hoshitubu

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