起きると
薄暗い部屋から夫は掻き消えていた
ご丁寧にゴミだけは捨てて。

鼻から喉にかけて
砂のような味覚が込み上げ
水を含ませたいと願う。
昨夜の町は乾燥注意報が出て
し切りと広報カーが走っていた。

わたしの濯ぎはいいかげんなときもあり
コップの水に
洗剤の味がすることもある。
指紋も。

蛇口から飛び出す朝は
新聞配達の帰ったすぐあとではまだ冷たい。
真水
のように思えてぐいっと飲み干す。

気配に目覚めた娘も
地球の裏側に這い出してしまったように
カーテンの眩しさに目をしばたいて
水を頂戴と呟く。
ごくりと飲み干しながら
目は虚空を眺める。
もっと寝て居ろと言うと
からのグラスを置いて
だるそうに布団に忍びこむ。

空の水はまだ落ちない。
新聞の天気予報はあたることもあるが
暗い部屋をみわたすと
空の水は遅かれ早かれ
落ちてくるだろうと思う。

風呂場に
蒸発した夫の湯の形跡は
浴槽の縁の湯垢や
すりガラスの
もわっとした霊のような模様に
静かに漂っていた。

【投稿者】 星粒

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